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F is For Fragments

フはフラグメンツのフ

Note



俺「仕事」がしたいよ

収入に繋がるという意味じゃなくて――
それは本当に尊いことだと思うけれど
そんなことすら忘れて

純粋な衝動
自分の魂が求めるものを追いたいんだ
本気の「自分の仕事」・・・



でもさー描くよね?
青木君描くよね?

他のことしながらでも・・・
ゆっくりでも
ときどき休んでも
青木君は描くよね?

青木君
わたしそれならうれしいな
描いてくれたらうれしい
それだけでうれしいな

描くことをやめないでね
青木君
続けてね

やめないでね
青木君
続けてね・・・
吉田基已「夏の前日」)

寒い夜の自我像

きらびやかでもないけれど
この一本の手綱をはなさず
この陰暗の地域を過ぎる!
その志明らかなれば
冬の夜を我は嘆かず
人々の憔懆のみの愁しみや
憧れに引廻される女等の鼻歌を
わが瑣細なる罰と感じ
そが、わが皮膚を刺すにまかす。

蹌踉よろめくままに静もりを保ち、
聊かは儀文めいた心地をもつて
われはわが怠惰を諫める
寒月の下を往きながら。

陽気で、坦々として、而も己を売らないことをと、
わが魂の願ふことであった!
(中原中也「山羊の歌」)



まだ・・・僕らが知らない
壁の向こう側があるはずだと・・・
信じたいんだ
(諌山創「進撃の巨人」)



 そこであんまり一ぺんに云ってしまって悪いけれどもなめとこ山あたりの熊は小十郎がすきなのだ。その証拠には熊どもは小十郎がぼちゃぼちゃ谷をこいだり谷の岸の平らないっぱいにあざみなどの生えているとこを通るときはだまって高いとこから見送っているのだ。木の上から両手で枝にとりついたり崖の上で膝をかかえて座ったりしておもしろそうに小十郎を見送っているのだ。まったく熊どもは小十郎の犬さえすきなようだった。けれどもいくら熊どもだってすっかり小十郎とぶっつかって犬がまるで火のついたまりのように飛びつき小十郎が眼をまるで変に光らして鉄砲をこっちへ構えることはあんまりすきではなかった。そのときは大ていの熊は迷惑そうに手をふってそんなことをされるのを断った。けれども熊もいろいろだから気の烈しいやつならごうごう咆えて立ちあがって、犬などはまるで踏みつぶしそうにしながら小十郎のほうへ両手を出してかかって行く。小十郎はぴったり落ち着いて樹をたてにして立ちあがりながら熊の月の輪をめがけてズドンとやるのだった。すると森までががあっと叫んで熊はどたっと倒れ赤黒い血をどくどく吐き鼻をくんくん鳴らして死んでしまうのだった。小十郎は鉄砲を木へたてかけて注意深くそばへ寄って来て斯う云うのだった。
「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事をしていんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生まれたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ。」



 こんな風だったから小十郎は熊どもは殺してはいても決してそれを憎んではいなかったのだ。ところがある年の夏こんなようなおかしなことが起こったのだ。
 小十郎が谷をばちゃばちゃ渉って一つの岩にのぼったらいきなりすぐ前の木に大きな熊が猫のようにせなかを円くしてよじ登っているのを見た。小十郎はすぐ鉄砲をつきつけた。犬はもう大悦びで木の下に行って木のまわりを烈しく馳せめぐった。
 すると樹の上の熊はしばらくの間おりて小十郎に飛びかかろうかそのまま射たれてやろうか思案しているらしかったがいきなり両手を樹からはなしてどたりと落ちて来たのだ。小十郎は油断なく銃を構えて打つばかりにして近寄って行ったら熊は両手をあげて叫んだ。
「おまえは何がほしくておれを殺すんだ」
「ああ、おれはお前の毛皮と、胆のほかにはなんにもいらない。それも町へ持って行ってひどく高く売れるというのではないしほんとうに気の毒だけれどもやっぱり仕方ない。けれどもお前に今ごろそんなことを言われるともうおれなどは何か栗かしだのみでも食っていてそれで死ぬならおれも死んでもいいような気がするよ」
「もう二年ばかり待ってくれ、おれも死ぬのはもうかまわないようなもんだけれども少しし残した仕事もあるしただ二年だけ待ってくれ。二年目にはおれもおまえの家の前でちゃんと死んでいてやるから。毛皮も胃袋もやってしまうから」
 小十郎は変な気がしてじっと考えて立ってしまいました。熊はそのひまに足うらを全体地面につけてごくゆっくりと歩き出した。小十郎はやっぱりぼんやり立っていた。熊はもう小十郎がいきなりうしろから鉄砲を射ったり決してしないことがよくわかってるというふうでうしろも見ないでゆっくりゆっくり歩いて行った。そしてその広い赤黒いせなかが木の枝の間から落ちた日光にちらっと光ったとき小十郎は、う、うとせつなそうにうなって谷をわたって帰りはじめた。それからちょうど二年目だったがある朝小十郎があんまり風が烈しくて木もかきねも倒れたろうと思って外へ出たらひのきのかきねはいつものようにかわりなくその下のところに始終見たことのある赤黒いものが横になっているのでした。ちょうど二年目だしあの熊がやって来るかと少し心配するようにしていたときでしたから小十郎はどきっとしてしまいました。そばに寄って見ましたらちゃんとあのこの前の熊が口からいっぱいに血を吐いて倒れていた。小十郎は思わず拝むようにした。



 一月のある日のことだった。小十郎は朝うちを出るときいままで言ったことのないことを言った。
さま、おれも年ったでばな、今朝まず生れで始めで水へ入るのんたよな気するじゃ」
 すると縁側の日なたで糸を紡いでいた九十になる小十郎の母はその見えないような眼をあげてちょっと小十郎を見て何か笑うか泣くかするような顔つきをした。小十郎はわらじを結えてうんとこさと立ちあがって出かけた。子供らはかわるがわるうまやの前から顔を出して「さん、早ぐおや」と言って笑った。小十郎はまっ青なつるつるした空を見あげてそれから孫たちの方を向いて「行って来るじゃぃ」と言った。
 小十郎はまっ白な堅雪の上を白沢の方へのぼって行った。
 犬はもう息をはあはあし赤い舌を出しながら走ってはとまり走ってはとまりして行った。間もなく小十郎の影は丘の向うへ沈んで見えなくなってしまい子供らは稗の藁でふじつきをして遊んだ。



小十郎がその頂上でやすんでいたときだ。いきなり犬が火のついたように咆え出した。小十郎がびっくりしてうしろを見たらあの夏に眼をつけておいた大きな熊が両足で立ってこっちへかかって来たのだ。
 小十郎は落ちついて足をふんばって鉄砲を構えた。熊は棒のような両手をびっこにあげてまっすぐに走って来た。さすがの小十郎もちょっと顔いろを変えた。
 ぴしゃというように鉄砲の音が小十郎に聞えた。ところが熊は少しも倒れないで嵐のように黒くゆらいでやって来たようだった。犬がその足もとに噛み付いた。と思うと小十郎はがあんと頭が鳴ってまわりがいちめんまっ青になった。それから遠くでこう言うことばを聞いた。
「おお小十郎おまえを殺すつもりはなかった」
 もうおれは死んだと小十郎は思った。そしてちらちらちらちら青い星のような光がそこらいちめんに見えた。
「これが死んだしるしだ。死ぬとき見る火だ。熊ども、ゆるせよ」と小十郎は思った。それからあとの小十郎の心持はもう私にはわからない。
 とにかくそれから三日目の晩だった。まるで氷の玉のような月がそらにかかっていた。雪は青白く明るく水は燐光をあげた。すばるやしんの星が緑や橙にちらちらして呼吸をするように見えた。
 その栗の木と白い雪の峯々にかこまれた山の上の平らに黒い大きなものがたくさん環になって集って各々黒い影を置き回々フイフイ教徒の祈るときのようにじっと雪にひれふしたままいつまでもいつまでも動かなかった。そしてその雪と月のあかりで見るといちばん高いとこに小十郎の死骸が半分座ったようになって置かれていた。
 思いなしかその死んで凍えてしまった小十郎の顔はまるで生きてるときのように冴え冴えして何か笑っているようにさえ見えたのだ。ほんとうにそれらの大きな黒いものは参の星が天のまん中に来てももっと西へ傾いてもじっと化石したようにうごかなかった。
(宮沢賢治「なめとこ山の熊」)



だが、八戒と語ることが繁くなるにつれ、最近妙な事に気が付いて来た。それは、八戒の享楽主義の底に、時々、妙に不気味なものの影がちらりと覗くことだ。「師父に対する尊敬と、孫行者への畏怖とが無かったら、俺はとっくにこんな辛い旅なんか止めてしまっていたろう。」などと口では言っているくせに、実際はその享楽家的な外貌の下に戦々兢々として薄氷を履むような思いの潜んでいることを、俺は確かに見抜いたのだ。いわば、天竺へのこの旅が、あの豚にとっても(俺にとってと同様)、幻滅と絶望の果に、最後に縋り付いたただ一筋の糸に違いないと思われる節が確かにあるのだ。
(中島敦「悟浄歎異」)



「人は誰しもいつか死ぬ・・・だからといっていつ死んでも同じということにはなりません
わたくしは武術しか知らない粗忽者でございますが・・・あえて言わせていただければ
武術において『早いか』『遅いか』は決定的な意味を持ちます
およそ戦いの場において必要なこととは
打つべき時に打ち退くべき時に退く・・・ただそれだけです
武術ではそれを『間』と呼びます
その『間』を弁えられればそれが『間に合う』こととなり・・・
間を掴み損ねる者は『間抜け』と呼ばれることとなりましょう」
(上山道郎「ツマヌダ格闘街」)



「優しくしてもいいのよ。」
(西森博之「お茶にごす。」)



 小津は例の妖怪めいた笑みを浮かべて、へらへらと笑った。
「僕なりの愛ですわい」
「そんな汚いもん、いらんわい」
 私は答えた。



 私はにやりと笑みを浮かべた。
「俺なりの愛だ」
「そんな汚いもん、いりません」
 彼は答えた。
(森見登美彦「四畳半神話大系」)



彼女 好き? 好き? 大好き?
彼  うん 好き 好き 大好き
彼女 なによりもかによりも?
彼  うん なによりもかによりも
彼女 世界全体よりもっと?
彼  うん 世界全体よりもっと
彼女 わたしが好き?
彼  うん きみが好きだ
彼女 わたしのそばにいるの 好き?
彼  うん きみのそばにいるの 好きだ
彼女 わたしを見つめるの 好き?
彼  うん きみを見つめるの 好きだ
彼女 わたしのこと おばかさんだと思う?
彼  いや きみのこと おばかさんだなんて思わないよ
彼女 わたしのこと 魅力(ミリキ)あると思う?
彼  うん きみのこと 魅力(ミリキ)あると思うよ
彼女 わたしといると退屈になる?
彼  いや きみといると退屈にならないよ
彼女 わたしの眉毛 好き?
彼  うん きみの眉毛 好きだ
彼女 とっても?
彼  とっても
彼女 どっちのほうが好き?
彼  一方といったらもう一方がやっかんじゃうよ
彼女 言わなきゃだめ
彼  両方ともいいようなくすてきだなあ
彼女 本気?
彼  本気
彼女 わたしの睫毛 すてき?
彼  うん すてきなすてきな睫毛だ
彼女 それっきりなの?
彼  言いようもなくみごとだよ
彼女 わたしの匂いをかぐの 好き?
彼  うん きみの匂いをかぐの 好きだ
彼女 わたしの香水 好き?
彼  うん きみの香水 好きだ
彼女 わたしのこと 趣味がいいと思う?
彼  うん きみのこと 趣味がいいと思うよ
彼女 わたしのこと 才能があると思う?
彼  うん きみのこと 才能があると思うよ
彼女 わたしのこと 怠けん坊だと思わない?
彼  うん きみのこと 怠けん坊だなんて思わないよ
彼女 わたしにさわるの 好き?
彼  うん きみにさわるの 好きだ
彼女 わたしのこと おかしいと思う?
彼  だって そこがいいんだなあ
彼女 わたしのこと 笑いものにしてる?
彼  いや きみのこと 笑いものになんてしてないよ
彼女 ほんとうに 好き? 好き? 大好き?
彼  うん ほんとうに 好き 好き 大好き
彼女 言って 「好き 好き 大好き」って
彼  好き 好き 大好き
彼女 わたしを抱きしめたいと思う?
彼  うん きみを抱きしめたい、きみを抱いてなでまわしたいよ、
   そして鳩どうしみたいにキスしたり甘い声で話しあったりしたいな
彼女 これでいい?
彼  うん これでいいよ
彼女 誓ってくれる? けっしてわたしを置きざりにしないって
彼  いつまでだってけっしてきみを置きざりにしないって誓うよ、胸のうえに十字を切るよ、
   そして嘘をつくくらいなら死ねたらと思うよ

   (無言)

彼女 ほんとうに 好き? 好き? 大好き?
(R・D・レイン「好き? 好き? 大好き?」)



「人が憎いか?」
「考えている」
「人を愛したい?」
「考えている
「生まれてからずっと考えつづけてきた 人間とは何か 世界とはなにか
わからない・・・君なら答えを持っていると思った」
「わからないんじゃねぇだろ 欲しいんだろ
お前が欲しがってるのは人間たちが数万年の間追い求めてきたものだ
『時よ止まれ お前は美しい』 世界の祝福 人間の肯定
『人はそのために生きている』と言えるような価値と意義
虐殺と繁栄を正当化してくれる免罪符
人間存在に崇高な使命を与える神話
万物の霊長として人を獣より上における特権
神様のおすみつき
そんなものはねぇよ
家族 絆 誇り 情 未来 美 努力 信仰 そして愛
人を肯定し縛るためにいろんなもんが持ち出されるが
人間の獣性を埋め合わせてチャラにするというには ほど遠いなっ」

「正義も真理も知らねぇ
悪意 虐待 戦争
あんたが見てきたものと俺の中にあるものは同じものさ」
「この世界にも人間にも意義はないというのか・・・」
「ないよ」
「なら なぜ人を愛せる?」
「なぜ? 理屈で愛してたらその理屈に合わないものを愛せなくなっちまうだろ
人間を愛しようってヤツがそんなんじゃやってけねえさ」

「リジイア 俺はお前を救えない
世界に意味はないしお前の苦痛にも意味はない
意味のないものに答えはないよ
世界にはなにもない

それでも俺は愛したいのだ」

「どーお? リジイア なんか見えそう?」
「全く」
「でしょうね
あなただけじゃなく大勢の悪魔がイヴのようになりたがってる
でも誰もイヴを理解できないんだよね なんでああなれるのか
悪意と嗜虐 苦悶と憎悪 人が目をそむける獣性の掃き溜め
考えうるかぎりの醜悪と汚穢の吹き溜まりでイブは生まれた 君と同じようにね
そんなイブが行きついた結論が人の全てを愛することだった
おかしいよね? 異常というほかない
虐待されても親を慕いつづける子供みたいなものかね
あたしもイヴをどう解釈したらいいのかいまだにわかんないのよ
彼女の存在は人間性の勝利なのか敗北なのか
人間のそのまま全てを愛する
それは人間に何ひとつ期待してないってことでもある
どれだけ変わることを期待してもムダだからそのままでいい
あんな寂しい悪魔もいないよ
一方であんな楽しそうな悪魔もいないのよね
追っかけてみてよイヴのこと
それでなんかわかったらぜひ教えてちょうだい」

「イヴ・・・ 私には君のように割り切れるとは思えない」
「割り切れているように見えるか?」

「俺にしてからが永遠の設問さ・・・」
(伊藤黒介「イヴ愛してる」)



「いま、わたしたちがこうやって話し合っているテーブルの下に時限爆弾が仕掛けられていたとしよう。しかし、観客もわたしたちもそのことを知らない。と、突然、ドカーンと爆弾が爆発する。観客は不意をつかれてびっくりする。これがサプライズだ。サプライズのまえには、なんのおもしろみもない平凡なシーンが描かれただけだ。では、サスペンスが生まれるシチュエーションはどんなものか。観客はまずテーブルの下に爆弾がアナーキストかだれかに仕掛けられたことを知っている。爆弾は午後一時に爆発する、そして今は一時十五分前であることを観客は知らされている。(中略)これだけの設定でまえと同じようなつまらないふたりの会話がたちまち生きてくる。なぜなら、観客が完全にこのシーンに参加してしまうからだ。スクリーンのなかの人物たちに向かって、『そんなばかな話をのんびりしているときじゃないぞ!もうすぐ爆発するぞ!』と言ってやりたくなるからだ。最初の場合は、爆発とともにわずか十五秒間のサプライズを観客に与えるだけだが、あとの場合は十五分間のサスペンスを観客にもたらすことになるわけだ。つまり、結論としては、どんなときでもできるだけ観客には状況を知らせるべきだということだ。サプライズをひねって用いる場合、つまり思いがけない結末が話の頂点になっている場合をのぞけば、観客にはなるべく事実を知らせておくほうがサスペンスを高めるのだよ。」
(トリュフォー、ヒッチコック「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」)



 ちょうど次の人形を 開発しているころ、アニメ作家の大塚康生さんが会社に遊びに来られました。大塚さんは、宮崎駿さんとのコンビで「ルパン三世 カリオストロの城」「未来少年コナン」など、数々の名作を世に送り出した方で、アニメファンならだれもが知っている巨匠です。私の兄が東映の動画部に所属しており、その関係で知り合うことができたのです。
 人形の原型となる石膏像を見た大塚さんは、こうつぶやきました。
「うーん・・・2コマ遅い」
 私は大塚さんの言葉の意味がわかりませんでした。
「田宮さん。悪いけど、これはベストのポーズじゃありませんね。このキマリのポーズの2コマ前の瞬間がいいんだなぁ」
 というのです。
「もとにしてる写真のポーズ、これがちょっとね。止まってる状態で撮ってるでしょ。だから人形に動きがないんだ。ライフルを撃つとどうなる? こんなカチカチのポーズじゃない。撃った瞬間、反動で肩がブレるんだ。そういうことを知ったうえで作ったほうがいいですよ」
「動きも、すこぉし、デフォルメしたほうが迫力が出る。走るにしても、まっすぐ走らせるんじゃなく、障害物を避けるような感じ。ちょっと体をねじるような。この、ちょっとが重要なんだ。そうすると、グッとリアリティが増すんだよ」
 大塚さんは、動画をひとコマ、ひとコマ計算することのできる”ムービー”のプロです。そのアクションを見極める目には、本当に驚かされました。
 たしかに私も漠然と、なにかが足りないとは感じていました。大塚さんの指摘は、ひとつひとつが「なるほど」というものばかりで、私もスタッフも、目からウロコが落ちるような心境で耳をかたむけました。大塚さんのすばらしい監修により、いままで以上にリアルな人形を作ることができたのはいうまでもありません。
(田宮俊作「田宮模型の仕事」)



戦史における失敗の原因は、ほとんどすべての場合、ひとことでいえる。それは「遅すぎた(too late)」である。
(松村劭「戦術と指揮」)



遊びをせんとや生れけむ
戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば
我が身さえこそ動がるれ
(「梁塵秘抄」)



 世界°の三人はすぐにもどってきた。汗を拭く間もないという様子だ。
「ひとつききたいんだけど――」
 百合香が指を一本立てる。荒い息がマイクにぶつかって、ライブハウスを風が揺らしているように聞こえた。
「ここにいる一年生の中でアイドルやってみたいって人いる?」
(アイドル・・・・・・)
 下火(あこ)は思わずアーシャを見た。アーシャも下火を見ていた。下火は恥ずかしくなって目を伏せた。
「おお、けっこういるね。じゃあその人たちにいっておく。私たちからのアドバイス」
 百合香が大きく息を吸い、そして叫んだ。「今やれ! 早くやれ! うまくなるの待ってないでやれ!」
(石川博品「メロディ・リリック・アイドル・マジック」)



  1. 映像。Vision 1.
  2. 予感。Sense.
  3. 彼の日々、Moving.
  4. でも、わたし、Gransirus.
  5. くつをはく。Navigation.

  6. 花を買うように、Vision 2.
  7. 信じない、Indian poker.
  8. 彼がドアを閉めた、Plot.
  9. 気弱いんじゃない。Paris lady.
10. 週末の午後。cafe terrasse.
11. ここで、opening.

12. きんもくせい。Walk.
13. そう、Action.
14. だから。NOSTALGIA after.
(鞠川雪映「NOSTALGIA ORIGINAL SOUND TRACK」)



神よ、
変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。
(ラインホルド・ニーバー ”静穏の祈り”)



あたしの祖父は 戦前自分の思想のために投獄されて拷問を受けて
それでも自分の思想を曲げなかったという人でね
意志の強い優しい人であたしは祖父を尊敬してたわ

祖父は小さなあたしによく言ったの
「全ての人に分け隔てなく接しなさい
どんな人にも良くしてあげなさい
お前も常に誰かに助けられて
いま生きているのだから」

そうだなその通りだと思ったわ
ごく自然に人はそう振る舞うべきだと思ったし
そうする事があたしには自然な事だった

「人を分け隔てない事
人を分け隔てない事・・・」

そうやって生きてきた事に後悔は無いのよ

でもあたし気付いてしまったの

恋をするって
人を
分け隔てるという事じゃない
(よしながふみ「愛すべき娘たち」)



人の心すなほならねば、偽りなきにしもあらず。されども、おのづから、正直の人、などかなからん。
己れすなほならねど、人の賢を見て羨むは、尋常なり。至りて愚かなる人は、たまたま賢なる人を見て、これを憎む。「大きなる利を得んがために、少しきの利を受けず、偽り飾りて名を立てんとす」と謗る。己れが心に違へるによりてこの嘲りをなすにて知りぬこの人は、下愚の性移るべからず、偽りて小利をも辞すべからず、仮りにも賢を学ぶべからず。
狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり。
()を学ぶは驥の類ひ、(しゅん)を学ぶは舜の(ともがら)なり。偽りても賢を学ばんを、賢といふべし。
(吉田兼好「徒然草」)



Daisy, Daisy,
Give me your answer do!
I'm half crazy,
All for the love of you!

It won't be a stylish marriage,
I can't afford a carriage
But you'll look sweet upon the seat
Of a bicycle made for two.
(Harry Dacre「Daisy Bell」)
デイジー デイジー
はいと言ってよ
気がちがうくらいキミが好き

ちゃんと立派な花嫁みたいに
馬車のパレードは無理だけど

でもかわりにきっとすてき
キミと自転車 二人乗り
(WHITE-LIPS「誓いの言葉」)



悠々たり悠々たり(はなは)だ悠々たり
内外ないげ縑緗けんしょう千万の軸あり
杳々ようようたり杳々たり 甚だ杳々たり
道をいい道をいうに百種の道あり
え諷死えなましかばもといかんがなさん
知らじ知らじ吾も知らじ
思い思い思い思うとも
聖もることなけん
牛頭草を嘗めて病者を悲しみ
断菑だんし車をあやつって迷方をあわれ
三界の狂人は狂せることを知らず
四生の盲者は盲なることをさとらず
生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く
死に死に死に死んで死の終りにくら
(空海「秘蔵宝鑰ひぞうほうやく」)



「それにしても、こんどの件ではきみにお礼をいわなければなるまいね。きみがいなかったら、ぼくは調査に乗りださなかったかもしれないからね。そしたら、今回のような、今までにないおもしろい研究をする機会を、みすみす見逃していただろうからね。どうかね、これを緋色の研究とでも呼ぶことにしては? われわれだって、すこしは芸術的な表現を使ったっていいだろう。人生という無色の糸桛には、殺人という緋色の糸が分かちがたく混りこんでいる。ぼくたちの任務は、それを解きほぐし、分離して、端から端まで一インチものこすことなく白日のもとにさらけだすことなんだ。さあ、それでは、軽い食事をして、ノーマン・ネルーダの演奏会を聞きにいくとするか。彼女のヴァイオリンは、音色といい、弓の使いかたといい、まったくすばらしいよ。彼女が絶妙に弾きこなす、あのショパンの小曲はなんといったかな、───トラ・ラ・ラ・リラ・リラ・レ」
(コナン・ドイル「緋色の研究(鮎川信夫訳)」)



 兵助と宗冬は家光に爪甲礼をすると静かに立った。これは、上覧試合の場合の礼で、頭を下げることなく、軽く頷くだけのものである。
 間合は五間。
 宗冬は三尺三寸(一メートル)の定寸、枇杷の蛤刃の木太刀。中段に構えている。
 兵助は自身の考案になる二尺の小太刀(小太刀の定寸は一尺七寸五分である)、同じく枇杷の蛤刃の木太刀。だが宗冬のものと違って鍔がなかった。右片手にだらりと下げて、太刀先は僅かに左斜下を指している。いわゆる構えではない。新陰流に云う『無形の位』である。
 兵助は静かに宗冬を見た。
 宗冬の顔が『泣いて』いた。お了と共に見た小林第の池の鯉さながらに『泣いて』いた。
「鯉が泣いています」
 お了の声が聞こえた。
 池の中を差しているお了の白い細い指。
 澄明な水。花影がその水に落ちている。
 鯉は水の中で、鼻を痛めて泣いていた。
 この男は、どこを痛めて泣いているんだろう。
 不意に、兵助は家光もまた『泣いて』いるのを気配で知った。
 何故だ? なぜこの男たちは二人揃って『泣いて』いるんだ? 何のために、何に向かって『泣いて』いるのか?
 男たちの、生涯を賭けた何物かが、或るいはなんらかの情念が、この二人を泣かせているのだ。卒然とそう悟った時、兵助は正しく池を覗きこんでいた。すべてが澄明な水の中の出来事と見えた。それはすべて、そこはかとない耀きを水によって得ていた。すべてが耀き、すべてが哀しかった。そして兵助は明らかにその池の外にいた。
「鯉のどこがそんなに面白いんですか」
 自分の声が聞こえた。馬鹿だなあ、俺は。
「魚になるのが楽しいだけだ」
 父の声がする。
 親爺は池の中に人の世を見ていたんじゃないのか。ちらりとそう思った。それとも、鯉になることによって、池の中から人の世を見ていたのかもしれない。
 唐突に宗冬が『泣いて』いるわけが分った。一太刀。一太刀でいいから浴びせたい。己れのためにも。江戸柳生のためにも。宗冬はそう呟きながら『泣いて』いた。
<いいじゃないか。斬られてやろう>
 兵助はそう思う。鯉のささやかな望みをかなえてやってどこが悪い。もとよりそれは試合に負けることではなかった。
<肋一寸だ>
『肋一寸』』は新陰流の極意の一つである。己れの肋一寸を斬らせて、敵の生命を絶つ。
<なにも殺すことはないな>
 袴の裾を軽くさばいて、するすると間合をつめながら、そう思った。
 宗冬は瞠目した。動けなかった。兵助の歩みがまるで自然なのである。『鳶が羽を使うが如く』と後にこの時の足さばきは評されているが、それほど楽に、自然に、そしてなにげなく、兵助は既に一足一刀の間境を超えようとしていた。
 宗冬ははっと我に返った。たった一太刀! 執念の一太刀を振り下ろす時が、今まさに過ぎようとしている。宗冬が双手中段の太刀を右片手上段に執り、兵助の左の頸の付け根から右肋骨にかけて、斜太刀に打ちおろしたのは、夢中のなせる業だった。蛤刃の木太刀は、まるで剃刀のように、兵助の着衣の胸を左から右斜下に切り裂いたと云う。
 同時に兵助の木太刀は、宗冬の木太刀を握る右拳を打つともなく自然に打ち、その手の甲を粉微塵に砕いていた。
(隆慶一郎「慶安御前試合」)



私は・・・
あの時私は
泣かなかったけどさ

兄ちゃんの背中を
見ながら歩くうち
だんだん
だんだん
ほっとして

心細さとか辛さとか
だんだん
だんだん
消えてって・・・

月が
あんまり綺麗で・・・

だから
ほんとは・・・
わたしは・・・

泣きたかったんだよ
兄ちゃん・・・・・・
(川原泉「笑う大天使 夢だっていいじゃない」)



「・・・叱られた~担任の先生に~うっかり者とな~」
「はい」
「・・・ほんとに心配しとらっしゃるで叱るだよ~先生は~」
「うん うん
だから叱られると嬉しくてついウットリするんだ私」
(川原泉「森には真理が落ちている」)



 エーテルの波を越えて
星の海を渡っていこう

 そこにはあきれるほどの
まだ見たことのないものが
ちらばっているはずさ

 光を追い越し 時間を翔んで
いつまでも どこまでも
(アイレム「R-TYPE FINAL」)



そうだ宇宙に比べれば微細なこと・・・
地球から月までの距離38万km
地球から火星までの最短距離5千5百万km
地球から太陽までの距離1億5千万km

俺から彼女の心の距離・・・

だめだ遠いわ星間より全然遠い気がするわ
光速でぐんぐん離れてるわ

それでも時速20kmで走ったら
追いつけるだろうか
(九井諒子「ひきだしにテラリウム」)


冬の夜

みなさん今夜は静かです
薬鑵の音がしてゐます
僕は女を想つてる
僕には女がないのです

それで苦労もないのです
えもいはれない弾力の
空気のやうな空想に
女を描いてみてゐるのです

えもいはれない弾力の
澄み亙つたる夜の沈黙
薬鑵の音を聞きながら
女を夢みてゐるのです

かくて夜は更け夜は深まって
犬のみ覚めたる冬の夜は
影と煙草と僕と犬
えもいはれないカクテールです

  2

空気よりよいものはないのです
それも寒い夜の室内の空気よりよいものはないのです
煙よりよいものはないのです
煙より 愉快なものもないのです
やがてはそれがお分りなのです
同感なさる時が 来るのです

空気よりよいものはないのです
寒い夜の痩せた年増女の手のやうな
その手の弾力のやうな やはらかい またかたい
かたいやうな その手の弾力のやうな
煙のやうな その女の情熱のやうな
炎えるやうな 消えるやうな

冬の夜の室内の 空気よりよいものはないのです

言葉なき歌

あれはとほいい処にあるのだけれど
おれは此処で待つてゐなくてはならない
ここは空気もかすかで蒼く
葱の根のやうに仄かに淡い

決して急いではならない
此処で十分待つてゐなければならない
処女の眼のやうに遥かを見遣つてならない
たしかに此処で待つてゐればよい

それにしてもあれはとほいい彼方で夕陽にけぶつていた
号笛の音のやうに太くて繊弱だつた
けれどもその方へ駆け出してはならない
たしかに此処で待つてゐなければならない

さうすればそのうち喘ぎも平静に復し
たしかにあすこまでゆけるに違ひない
しかしあれは煙突の煙のやうに
とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた
(中原中也「在りし日の歌」)


修羅街輓歌

忌はしい憶ひ出よ、
去れ! そしてむかしの
憐みの感情と
ゆたかな心よ、
返つて来い!

  今日は日曜日
  縁側には陽が当る。
  ──もういっぺん母親に連れられて
  祭の日には風船玉を買つてもらひたい、
  空は青く、すべてのものはまぶしくかゞやかしかった……

  忌はしい憶ひ出よ、
  去れ!
     去れ去れ!
(中原中也「山羊の歌」)



 春だった。一面に名もなき花の咲き乱れた花野に、兵介は立っていた。眼が異様だった。兵介にはその花野が、屍で埋まった高原郷の村と映った。赤は血であり、白は女の肌だった。そして緑は屍体すべての顔色である。
「わッ」
 凄まじい叫喚が、兵介の咽喉から発せられ、次の瞬間、兵介は花野の中に倒れ、指で土をかきむしっていた。
「わっ。わっ。わっ」
 指は花をむしり、草をひき抜き、土をえぐった。花が、葉が、土が虚空に散乱する。それが悉く屍体の腕に、首に、臓腑に映った。
 新次郎は無言で凝視している。彼には、兵介の見ている物が見えない。だが推測はついた。このまま狂うかもしれぬ、とも思った。それでも動かなかった。狂気もまた一個の救いであることを、新次郎は知っている。それで救われるのなら……やむをえないと思っていたのだ。
 四半刻も兵介の狂態は続いた。
 やがておとなしくなった。
 死んだように倒れて、また四半刻が過ぎた。
 不意に口が動いた。
「修羅だったよ」
 新次郎は兵介のそばに曲がった腰をおろした。
「あれは、まったくこの世の修羅だったよ、おやじ」
 噎ぶように兵介が云った。
「分っている」
「分ってるって。おやじに分っているって」
 兵介ははね起きて云った。野獣の素早さであり、激しい怒りの眼だった。
「嘘だッ」
「嘘じゃない。おれも見たよ」
「嘘だッ。おやじは生きてるじゃないかッ」
「それは……」
 新次郎は憐れむように兵介を見た。
「おれはその中にいたからさ」
「なんだって」
「死人の中にだよ。おれは倒れて、死人の中にいたんだ。大方、死人と変りはなかった」
「…………」
「腰をくだかれてね、身動きひとつ出来なかった。お前のように、立って見おろしていたんじゃなかった」
 兵介が妙な声を出したと思ったら、泣きだした。高原郷で遂に訪れてくれることのなかった涙が、今、兵介の頬をさめざめと濡らしている。
「おれはその時、修羅の中にいるとは思わなかった」
 暫くの無言の後に、新次郎がぽつんと云った。
 兵介が新次郎を見上げた。新次郎の目は虚空を見ている。
「おれはね、まさしく仏たちの中にいたよ」
 長い沈黙があった。
「だから生きてるんだろうな、今でも」
 新次郎の声はききとれないほど幽かだった。
(隆慶一郎「柳生刺客状」)



まことに虫よき話なれども、金のことにて苦労するはいやなり。
金がくだらぬものと承知しているがゆえに、そのくだらぬ金にて苦労するはいよいよいやなものなり。
(山田風太郎「戦中派虫けら日記」)



(そもそも)此の無苦庵は、考を勤むべき親もなければ、憐むべき子もなし。
こころは墨に染ねども、髪結ぶがむづかしさに、つむりを剃り、
手のつかひ不奉公もせず、足の駕籠かき小揚やとはず。
七年の病なければ三年の(もぐさ)も用ひず。雲無心にして岫を出るもまたをかし。
詩歌に心なければ、月花も苦にならず。寝たき時は昼も寝、起きたき時は夜も起る。
九品蓮台に至らんと思ふ欲心なければ、八萬地獄に落つべき罪もなし。
生きるまでいきたらば、死ぬるでもあらうかとおもふ。
(前田慶次郎利益「無苦庵記」)



雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

南無無辺行菩薩
南無上行菩薩
南無多宝如来
南無妙法蓮華経
南無釈迦牟尼仏
南無浄行菩薩
南無安立行菩薩
(宮沢賢治[雨ニモマケズ])



「公表された作品については見る人全部が自由に批評する権利を持つ
どんなにこきおろされてもさまたげることはできないんだ
それがいやならだれにも見せないことだ」
「でもさっきはカンカンにおこってたくせに」
「剣鋭介に批評の権利があればぼくにだっておこる権利はある!
あいつはけなした! ぼくはおこった! それでこの一件はおしまい!」
(藤子不二夫「エスパー魔美」)



恋の至極は忍恋と見立申候。
逢てからは、恋のたけがひくし。一生忍びて思ひ死するこそ、恋の本意なれ。
歌に、恋しなん後の煙にそれとしれ、つゐにもらさぬ中のおもひを、
是こそ長高き恋なれ。
(山本常朝・田代陣基「葉隠聞書」)



「やっぱりいい女だよな、穂波さんって」
「そのいい女をほっといてどこに行くのかな?」
「そりゃ、好きな女のところへさ」
「うん、上等!」
(DISCOVERY「ツインズラプソディー」)



俺がまだガキだった頃・・・くたびれていかれた老ライダーに
苦しい時にゃチャックチャックイェーガーとるといい・・・
これがバイク乗りのまじないだといいやがった

大空の壁の向こうには悪魔がいるといわれた時代
1947年 ベルX-1で音の壁サウンド・バリアを破った男 チャック・イェーガー
あの老人ロングライダーが教えてくれた呪文がその名前だと知ったのはずいぶんとあとのことだった

現実から目をそらしてはならない・・・たとえ悪魔がいたとしてもだ!
立ち向かう力を・・・
チャック・チャック・イェーガー
(東本昌平「キリン」)



あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。

オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。

大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
(宮沢賢治「星めぐりの歌」)



青林檎与へしことを唯一の積極として別れ来にけり
(河野裕子「森のやうに獣のやうに」)


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