フはフラグメンツのフ
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「可能性という言葉を無限定に使ってはいけない。我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく、我々が持つ不可能性である」
師匠は言った。
「君はバニーガールになれるか? パイロットになれるか? 大工になれるか? 七つの海を股にかける海賊になれるか? ルーブル美術館の所蔵品を狙う世紀の大怪盗になれるか? スーパーコンピューターの開発者になれるか?」
「なれません」
師匠は頷いて、珍しく私にも葉巻を勧めてくれた。私はありがたく押し頂き、葉巻に火をつけようとして手こずった。
「我々の大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはいけない。君がいわゆる薔薇色の学生生活を満喫できるわけがない。私が保証するからどっしりかまえておれ」
「ひどい言われようです」
「毅然とするんだ。小津を見ならえ」
「それだけはごめんだなあ」
「まあ、そう言うな。小津を見たまえ。あいつは確かに底抜けの阿呆ではあるが、腰が据わっている。腰の据わっていない秀才よりも、腰の据わっている阿呆のほうが、結局は人生を有意義に過ごすものだよ」
「本当にそうでしょうか」
「うむ。……まあ、なにごとにも例外はあるさ」